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平成邦画レビュー

嫌われ松子の一生

公開:平成18年5月27日
監督:中島哲也
出演:中谷美紀、瑛太、市川美日子、黒沢あすか、伊勢谷友介ほか
総合評価:☆☆☆☆☆
コメディ度:☆☆☆☆★
鬱度:☆☆☆☆★
~あらすじ~
ミュージシャンを目指し福岡から上京した青年・川尻笙は、荒川の河川敷で殺害された面識のない叔母・川尻松子の住んでいた家の片付けをしていくうちに彼女に興味を抱く。
そして明かされる松子の転落人生。
生徒をかばって盗みの罪を被ったことが原因で勤めていた中学校をクビになって家出し、DVを受け、実家からも縁を切られ、色々な男を愛しては捨てられ続けていく。
ひたすら男たちから酷い目に遭わされ続けるが、一人孤独でいるよりも誰かと共に生きることを求めて彼女は誰かを一途に愛し続ける。
しかし、5人目の男に重すぎると拒絶され、過去を偲んで久しぶりに故郷の大川に戻って筑後川の畔に立って思い出に浸っている最中に偶然出会った兄から「二度と来るな。」と言われて家族との復縁の望みも完全になくなり、誰も信じず誰も愛さずに生きると決意してアパートの近くを流れる荒川の風景を筑後川に重ねて故郷を思い出して過ごすだけの孤独の日々を送る。程なく発狂し、奇行からタイトルにもなっている「嫌われ松子」と呼ばれるようになる。
荒んだ日々を送っていた松子だったが、ある日病院で偶然旧友に再会したことで人生をやり直すことを決意。だが、その直後ガキの夜遊びを注意して逆上したガキどもに惨殺されてしまう。
薄れゆく意識の中、松子は過去に付き合った男たちや友人、そして家族をとの幸せな日々を思い出しながら天に召されていく。

①現代の人間失格!

端から見たら不幸で無意味だった松子の人生。しかし、誰かに尽くすことができて本人にとっては幸せだったという括りで、「本当の幸せとは?」というのがこの映画のテーマ。
結構考えさせられる映画です。

しょうたは、「人間失格」の再解釈だと思いました。
松子の二人目の男の八女川が太宰治に傾倒してるとか、その影響で松子は玉川上水での自殺を試みたとか、発狂後の松子がアパートの壁に「生まれてきてすみません。」と書きなぐったとか、作品の端々で太宰治のオマージュであることがアピールされていますが、「人間失格」の主人公の大庭葉蔵に松子が重なるのです。
二人の類似点を比較してみます。
大庭葉蔵 川尻松子
父親から冷たくされ、気を惹くため「お道化」を身につける。 父親から冷たくされ、気を惹くため「変顔」を身につける。
冒頭で「お道化」の写真が登場。 冒頭で「変顔」写真が登場。
転落劇の始まる以前に、下男にアーッ♂される。 転落劇の始まる以前に、勤めていた学校の校長に犯される。
孤独を埋めるように多くの女性と付き合う。 孤独を埋めるように多くの男性と付き合う。
ヨシ子が犯されたことで他人を愛せなくなり、発狂。 洋一と兄の拒絶で他人を愛することを諦め、発狂。
バアのマダムのように最後まで葉蔵のことを信じている人もいる。 沢村社長や洋一のように最後まで松子のことを信じている人もいる。
バーのマダムに「葉ちゃんは神様みたいな本当にいい子」と言われる。 笙に「神様がいるなら松子かもしれない。」と言われる。
うん。性別と時代が違うだけじゃん!
「人間失格」は滅びの美しさと疎外されてきた男の孤独感を描いた小説だと思って読んでましたが、「幸せとは何か。」という解釈もあるのかと目からウロコが落ちた気分。
そういえば、「人間失格」冒頭で「幸福がわからない。」と述べた葉蔵も、ヨシ子との生活を「荒っぽいほどの大きな歓楽」と振り返っていて実は幸せを感じていました。
「人間失格」は廃人化した葉蔵によって書かれた手記という体裁なので過去をネガティブ気味に振り替えって書き記しているだけで (信頼できない語り手) 、ヨシ子に限らず女性たちと過ごしていた時の彼は結構幸せに生きてたのかもしれません。

あと、家族との確執とその解消を描いた作品とも捉えられるよね。
松子は父からの興味関心を奪った存在の妹に対して徹底的に辛く当たっていたけど、発狂後は妹の部屋の飾りつけを真似た飾りを自分で作ってたし、人生をやり直そうと決意した後押しも思い浮かんだ妹の顔。そして走馬灯の中で最後にたどり着いた場所は妹の部屋だった。
妹だけでなく、本当は松子のことも気にかけていたものの妹の世話で忙しくて松子に十分に接することができず、松子は「変顔」でしか気を惹くことしかできないと思っていた父が、天国への階段を上る松子が変顔をしなくても笑いかけていたのも、父と向き合えるようになったからでしょう。多分。
見るたびに色々な解釈ができて中々考えさせられるし、何度でも見返せる映画です。
ポップな映像やコミカルな描写のおかげで娯楽映画としての体面を保っているけど、噛めば噛むほど味の出るような純文学だよ。

②平成文化としての昭和レトロの集大成

ポップな映像って言ったけど映像表現も素晴らしかったね。
中盤までとラストで繰り広げられるミュージカルからは、心を閉ざす前の松子が毎日を幸せを感じてポジティブに生きていたんだな~ってことが本当に伝わってくる。
逆に心を閉ざしている晩年はミュージカルを挟まず生々しい現実をそのまま描いていて悲惨さが際立たってます。
また、作品の舞台となる時代の多くを昭和が占めているのでミュージカルシーンももちろん昭和を意識したものになっているけど、それに平成中期的な極彩色のポップさと渋谷っぽいスタイリッシュさを加えマッシュアップしたもので、唯一無二な世界観。
アムラーっぽい子をセンターにしたアイドルが昭和っぽい衣装で極彩色の舞台の上でハロプロっぽい曲を歌ったり、ザ・昭和な花柄デザインながら彩度高めな色合いでポップさの漂う部屋でディズニーっぽいミュージカルが繰り広げられたりする。
平成文化としての昭和レトロの一つの到達点だと思うっちゃね。

ミュージカルだけでなく、カメラワークも全編通じてよかったです。
令和的感覚だと正直使い古された感のある構図ばかりだけど、全編通じどこを切り取っても絵になる。
そんな描写の中でも特に印象に残るのが作中の端々で象徴的に挟まれる荒川が筑後川に切り替わるシーンで、松子の望郷の念が画面いっぱいにあふれ出ていて見てるほうまで凄まじい郷愁を感じます。上京した筑後出身者はこれを見ると映像美と音楽だけで映画の内容を知らなくても泣き出すらしいよ。しょうたは福岡県人でもゆめタウン筑紫野より南へ行くことは滅多にないのでピンとこないけど……。

総評

文句なしの100点!

「松子の一生」だからタイトルからしてそうだけど、一人の人生を追体験したかのような重みを感じれる。
視聴後の暗い気分は数日続き余韻もたっぷり味わえてとてもお得ですよ!
蛇足~松子の最後の帰郷で描かれなかった部分~
しょうたは福岡市の雑餉隈というところに住んでいるんだけど、裏設定によると福岡時代の松子が住んでいたのはなんと雑餉隈!
松子が同じ町で暮らしてたなんて、なんという偶然!これはもうジャジャジャ運命ジャジャジャジャーンです。
地元民的視点だと、ミュージカルに出てきた松子のパート先のスーパーのモデルは多分マルキョウか江島屋だから、聖地といえるかは微妙だけど松子の人生に思いを馳せたければ行くといいよ。江島屋は色々あって別のビルに移って魚屋になったから面影ないけど……。
あと、子供時代の松子の素敵なおもひでになった岩田屋デパートはPARCOになって変わり果てた姿で現役なのでそっちも行ってみよう!

さて、最後の帰郷~発狂以降の松子にはいくつか不可解な言動があります。
「精神が不安定だから。」と言えば片付くには片付くけど、最後の帰郷中に筑後川の畔で偶然出会った幼少期の笙に対しなぜか久しく発動していなかった「変顔」を見せたことや、発狂後雑餉隈時代に付き合っていた八女川が遺書に書いた「生まれてきてすみません。」をアパートの壁に書き殴って隣人から心配されたり、死後の走馬灯の最初の方で故郷の筑後川の風景に混じって八女川の遺書が出てくるなど、八女川の影響を受けたような言動が急に増えたことの2点については最後の帰郷に答えがありました。
地元民じゃないとわからないであろうローカルすぎる話なので、参考程度に書きますね。

松子は兄によって大川から柳川駅まで車で送られておりJRではなく西鉄電車に乗って帰郷していますが、新幹線の到着する博多駅から西鉄に乗ろうとすると、地下鉄で天神まで出て福岡から乗るか、鹿児島線で南福岡まで出て雑餉隈から乗ることになります。
雑餉隈は八女川と同棲していた町で、福岡駅に併設されている岩田屋は幼少期の父との楽しい思い出の場所であり「変顔」を習得したきっかけでもある場所。
直接的な描写はなかったけど、松子は最後の帰郷の時に大川以外のおもひでの場所にもしっかり立ち寄っていたのです!
なので、松子が帰郷中に久々の「変顔」を見せたのは、大川に戻るとき乗り換えで降りた天神で父を思い出したから。晩年八女川の影響が濃くなったのは大川から去るときは雑餉隈で降りて八女川との暮らしを思い出したからだと思うっちゃね。

電車男

公開:平成17年6月4日
監督:村上正典
出演:山田孝之、中谷美紀、瑛太、佐々木蔵之介、木村多江ほか
総合評価:☆☆☆★★
やさしさ:☆☆☆☆☆
石丸電気:石〇〇〇
~あらすじ~ キモオタク青年の「電車男」は、電車で酔っ払いに絡まれていた女性を助ける。
女性に感謝されエルメスのカップを送られた彼は、その女性を「エルメス」と呼び恋心を抱く。
電車男はその件を2ちゃんねらーに相談し、住民のアドバイスを受けながら徐々にエルメスと仲良くなっていった。

ここはやさしいインターネットですね。

00年代半ばに社会現象を巻き起こした「電車男」の映画版。
元スレや漫画版は見たことあったけど、映画版は初視聴なので平成後期のVIPPERによるまっさらな感想をお伝えします。

電車男自体、実はt

   / ̄ ̄\
 /   _ノ  \
 |   ( ●)(●) <おっと、それ以上は言うなよ…
. |     (__人__)____
  |     ` ⌒/ ─' 'ー\
.  |       /( ○)  (○)\
.  ヽ     /  ⌒(n_人__)⌒ \
   ヽ   |、    (  ヨ    |
   /    `ー─-  厂   /
   |   、 _   __,,/     \

(※)
とは言われてるけど、そのこと差し引いても

嘘くせ~。

ねらーがそんなに優しくないのはツッコむ以前の問題だけど、あんな日常会話もままならないレヴェルのコミュ症の挙動不審者が美人と仲良くなれるわけないでしょう?
オタク差別のなくなった現代だったとしても、汚いTシャツに脂ギッシュメガネのキモオタ全開ファッションで告白して受け入れられるわけないでしょう?
監督の感性大丈夫デスカ!?……いや、でも実際秋葉原とか行くとキモオタが女連れて歩いてたりするんだよな~。
……ってそこはいいよ!とにかく嘘くさい。

……でも、

電車男もエルメスもスレの住人もみんな本当にいい人ばかりで、心が温まります。

恋愛劇としては何一つ評価できるところはなかったけど、ハートフル映画としては100点満点だと思うっちゃね。
下心全開でエルメスに近づき最終的にセクロスまで書きこんじゃった本物の電車男と違って、映画の電車は「エルメスさんに楽しい気持ちでいてほしい。幸せであってほしい。」って気持ちだけで動いていて、コミュ症が絶望的すぎることを除いたら本当にいい奴すぎるし、エルメスも同じように「電車男さんに楽しんでもらえるのが一番いい。」って思ってるし、聖女だよ。
スレ住人も、デートを本気でプロデュースしたり電車男のことを自分のことのように気にかけてて、ヌクモリティに溢れてるよね。
しょうたならわざと駅から微妙に離れててその後の移動に支障をきたしそうな店や場所を教えてぎくしゃくしそうなデートプランを立てたり、「別れ」とか裏の意味のあるプレゼントを教えたりして、全力で別れさせる方向に持っていくのに……。そうだ!恋に悩んでる方!しょうたが相談にのってあげようか?食べるのが大好きなしょうたはオサレなイタリアンもたくさん知ってるし、最高のデートコースを立ててあげるよっ!

映画版で地味に良かったところであり、その後の中途半端な描写のせいでダメになったところが、電車男がオタク趣味をやめなかったところですね!
媒体によっては電車男は見た目を整えただけでなく、ゲームとかも処分して内面に至るまでに脱オタクしてるけど、「オタクは卒業!」とか言われてた00年代にオタクであることを受け入れてくれたのは制作サイドのやさしさだな~……。
一方、ドラマ版みたいにもっと早い段階でオタクであることをはっきりと告白したほうが電車男の誠実さを感じられた気もする。優しい世界にかくしごとは似あわないよ。
ポスト電車男のゆとり世代の頃とは世間のオタクへの目線が違うから、しょうたの感覚で一方的にあれこれ言うのもアレだけど、パソコン買いに行くときに会話の流れで自然にカミングアウトすればよかったんじゃないかな~。

総評

「電車男」の点数は

65点

最初に書いた通り、恋愛劇としては何一つ評価できないけど、ハートフル映画として見れば文句なしです。
本当に優しい世界すぎて、あの時代の秋葉原へ、あの時代の2ちゃんねるに行ってみたくなります。現実の昔の秋葉原は今以上にオタクの生乾き臭がきつく、現実のVIP以前の2chは無法地帯だと知識として知っていたとしても……。
ネット民全員が映画版「電車男」を見たら、インターネットは今より少しだけヌクモリティに溢れたより良いものになると思うっちゃね!
(※)……やる夫は電車男の時代にはまだいないので、電車男の感想にやる夫が出てくるのはやや不適切。

DOG×POLICE 純白の絆

公開:平成23年10月11日
監督:七高剛
出演:市原隼人、戸田恵梨香、カンニング竹山、村上淳、時任三郎ほか
総合評価:☆☆☆★★
東日本大震災の影響:☆☆☆☆☆
土10ドラマの劇場版感:☆☆☆☆★
~あらすじ~
優秀だが協調性のない若手警官早川は、警視庁警備部警備第二課装備第四係に配属される。
警部警備~という大層な名前とは裏腹に、実態は爆発物などを発見して事件を未然に防ぐ警備犬の訓練課で、今まで活動実績ゼロという閑職。
不貞腐れる早川だったが、シロというバディの犬を得たことによりやる気になって犬や課のメンバーとの絆を深めていく。
そんな中、世間を騒がせている連続爆破テロ事件の爆発物捜索に装備第四係が呼ばれるが……。
捜査一課と現場の対立や独りよがりな主人公の成長など、警察モノとして王道のストーリー。
警備犬訓練シーンも市原隼人が本当に体張ってることが伝わってきたよ。

だけど、中盤のショッピングモールで犯人を取り逃がしたあたりから雲行きが怪しくなり始める。映像のレベルがあからさまに落ち始めるのだ。
開幕早々警察の協力の元で広島そごう新館を本当に爆破したという邦画では異例の超本格的な爆発シーンが使われたにもかかわらず、車 (多分本当に爆破) 、爆発物処理 (普通のCG) と物語が進むにつれてどんどん爆発規模はしょぼくなっていき、クライマックスの地下鉄トンネルの爆破シーンは画面全体が炎に包まれるだけで終わり手抜きもいいところ。最初との落差で一層しょぼく見えてしまう。
普通こういうのってクライマックスに向けてクオリティが上がっていくものだと思うっちゃけど、どうしてこうなった!?
一応擁護しておくと、撮影中に起きた東日本大震災で茨城県内にあった警備犬訓練所のセットが使えなくなって撮影が一時中断になり、再開後も首都圏での撮影が困難でロケ地を急遽神戸に変更するなど、スケジュールが相当押していたらしい。
もし震災がなければ、全編最初のクオリティになっていたのかも……。残念ですね。

脚本も、やはり犯人を取り逃がしたあたりから細かいところで粗が目立ちはじめる。
原案が海猿の小森陽一というだけあってストーリー全体ではなんとかまとまっていたけど、早川の殉職した (?) 父、ヒロインの水野が警察学校時代に早川と会っていたこと、上司のカンニング竹山がITのスペシャリストでオタクであること……、など意味ありげに紹介されただけで物語には何一つ絡まない設定が多数登場。本編未視聴のドラマの劇場版を見ているような気分だ。
また、犯人の動機がはっきりと明かされなかったり、意味ありげに犯人を英雄視する人々の存在がニュースで語られるのに何も起きなかったりモヤモヤ感の残るシーンも多く、天ぷらとスイカを一緒に食べたときのような消化不良感を味わえる。
上映時間が105分と実写映画にしては短めだし、震災でスケジュールが狂って最初に予定していたシーンを全部撮りきれなくなって脚本を削ったのかもしれない。

総評

「DOG×POLICE 純白の絆」の点数は

65点

映画館で見るならがっかりモノだが、2時間ドラマの感覚で見れば十分楽しめる程度の出来
そごう爆破や犬の訓練シーンなど前半部には金も手間もかけられていて大作を撮ろうとしていた気概は伝わるので、震災による混乱さえなければ邦画史に残る名作になっていたかもしれない惜しい一本。
公開を遅らせても良かったので、全編前半のクオリティできちんと作ってほしかった。

亀は意外と早く泳ぐ

公開:平成年月日
監督:
出演:
総合評価:☆☆☆☆★
アクション:☆★★★★
リアリティ:☆☆☆☆★
~あらすじ~

総評

曲がれ!スプーン

公開:平成年月日
監督:
出演:
総合評価:☆☆☆☆★
超能力パワー:☆☆★★★
:☆☆☆☆☆
~あらすじ~

総評