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編集部事情から振り返る小学館問題


小学館問題とは

少年サンデーの歴史を振り返る上で避けては通れない大きな事件に、小学館問題があります。

小学館問題とは2008年にガッシュの作者の雷句誠先生が編集部によるパワハラや原稿紛失について小学館を訴訟し、それに続いて他の漫画家も一斉に編集による悪行や小学館の体質に声を上げた事件です。

人気漫画雑誌のスキャンダルということで大きな話題になりネットでも様々な議論がなされた小学館問題ですが、炎上騒ぎということで多くの人が飛びつきデマや誤解もたくさん広がりました。今のSNSの炎上騒ぎと同じように。

例えば、騒動の際にネットでは編集によるパワハラで精神を患って筆を折ったと言われていたひかわ博一先生が漫画を描かなくなった理由について、後のインタビューで投資で儲けてやる気がなくなったのが原因で、任天堂やコロコロ編集部との関係も良好だったと判明したり……。

【風評被害】小学館問題のもう一人の被害者?冠茂

その小学館問題の話をすると必ず出てくる人物に冠茂という編集者がいます。
世間では小学館問題の元凶になったパワハラ編集者……と認識されているのですが……。

実は彼、雷句先生とトラブった担当が「僕は冠茂と仲が良くってね」と言った以外雷句先生とは一切接点がありません。

雷句先生の元アシと折り合いが悪かったのは確かですが (後述)、「出しゃばり」ということを除けば殆ど悪いことはやっていません。というかその「出しゃばり」ってのも今見ると本当かどうか少し怪しいぐらいです。

冠茂が悪く言われることになった主な原因は、「僕は冠茂と仲が良くってね」発言、渡瀬悠宇先生へのパワハラ疑惑、藤崎聖人先生へのパワハラ疑惑、橋口たかし先生に擁護ブログを書かせた疑惑、編集のくせに出しゃばりすぎ、雷句先生の元アシとの確執の6つなんだけど、デマや風評被害が主で最後の一つ (ただし主たる責任は小学館) 以外は一切問題を起こしていないです。いや、それどころかトラブルを解決したこともあるぐらいです。もちろん強引な手段ではなく、きちんと漫画家に向き合うことで……。

「単に悪くない」とだけ書くと擁護工作員と思われてしょうたまで延焼しそうなので、完全な風評被害の1つ目は置いておいて、1個づつファクトチェックしていきます。

②渡瀬悠宇先生へのパワハラ疑惑

デマです。むしろ事件を収束させた側です。

告発文発表時の担当だったことと、雷句先生の件で評判を地に落としていたことでネットでは「冠がまた事件を起こした。」と叩かれていたけど、パワハラを加えていたのは前任のI、そう、ガッシュの原稿を紛失した張本人である飯塚洋介で、告発文中でも今の担当のK (=冠茂) のことは「担当が変わって話を聞いてもらえるようになった。やっと普通に漫画を描けるようになった。」と好意的に書かれています
小学館から出る漫画の単行本は奥付に担当編集の名前が載っているから、きちんと確認すればわかる話だよ?

③藤崎聖人先生へのパワハラ疑惑

これもデマっぽいです。
藤崎先生が「ワイルドライフの連載中にいいことなんてなかった。」とブログに投稿したことや、小学館漫画賞受賞の時に編集を褒めちぎっていたことによってパワハラ疑惑が出ましたが、藤崎先生はスピリッツにやコロコロに移籍して冠氏から離れた時期もあり、その縁で色々な雑誌に知り合いの編集がいるにもかかわらず、青年誌に異動してきた冠氏と再び組んで仕事をやっています。
たくさん知り合いの編集がいる中でわざわざパワハラ人間と組むとは思えないし、あえて冠氏を仕事相手に選ぶぐらいなので本心から冠氏のことを信頼しているものだと思われます。。
「いいことがなかった」発言については冠氏が以前「連載中にメディア化されると言っていたのに、それが叶わなかったこと。力不足ですまない。」 (意訳) とTwitterで言っていましたが、おそらく真相はそんな所なのでは?

④小学館問題の時に橋口先生に擁護ブログを書くように強要した疑惑

小学館のみならず橋口先生と親交のあった漫画家の藤栄道彦先生も本人によるものと発言しています。
橋口先生は、その昔個人サイトのプロフィールで「相棒:冠茂」と書いたり、インタビューでも「俺にとって最高のパートナーは『か・ん・む・り』です」と答えるなど、漫画家と編集の関係を越えた何かがあるのではないかと疑ってしまうほど冠氏と仲が良く、彼に絶大な信頼を寄せていましたので自ら書いたと考えるのが自然です。
皮肉なことにこのブログがサンデー編集部の自作自演と勘違いされ、炎上の強力な燃料になってしまったのですが……。

⑤出しゃばりすぎ

単行本に顔写真を載せたり、同姓同名の天才美少年キャラが大活躍するなどジャぱんで出しゃばりまくりだったのは事実ですが、前述のように二人はとても仲が良いので世間で言われているような強要ではなく「相棒」へのサービスで出しただけだと思われます。
実際冠氏は原作まで担当したという他作品 (ワイルドライフ、電波教師二部) では出しゃばってないし、パスポート・ブルーでは宇宙ステーションを乗っ取った挙句大気圏に突入して燃え尽きて死んだチョイ役の敵の名前に使われたり、コナンの容疑者リストにも名前を連ねるなどジャぱん以外では普通の編集と変わらない扱いを受けています。
もちろんメインの天才美少年キャラに自分の名前をつけることにOKを出したのはどうかと思うけど、他作品では出しゃばっていないし二人の仲の良さを考えると世間で言われるような強要や暴走は考えづらいです。

⑥雷句先生の元アシとの確執

唯一冠氏にも非があると言えなくないのが、最後に挙げた雷句先生の元アシの酒井ようへい先生との確執ですが、ただ主たる原因は冠氏個人より当時のサンデーの路線変更と編集部の体質です。
確執の内容は「冠茂がストーリーに口出しして物語を台無しにした挙句、逃げるように他の担当に交代した。」というものなのですが、揉めることになったその作品がこちら。



どう考えてもコロコロでやるべきマンガなのに、当時の編集長の低年齢層向けへの路線変更によって無理やりサンデーに載せられたであろうもの。
ただでさえ少年誌では難しい作品な上に、知識・蘊蓄を元にした青年誌的な作品を得意とする冠氏との相性も絶望的

何を考えたらこんなカープの佐々岡より酷い采配をできるのか?

何を考えたら……それは、純血主義です。
マギ・神のみなどを担当した元サンデー編集の石橋和章氏はサンデー時代の回顧録において純血主義と呼んでいますが、サンデー編集部はサンデー生え抜きの編集者と非生え抜きの間で扱いにはっきりと格差があり、人気作家・有望な新人の担当は生え抜き編集にしか与えられず、中途組は微妙な作品しか任せて貰えないようなのです。
冠氏もテレビ局から小学館に転職した非生え抜きでサンデー的にはどうでもいい人なので (※石橋氏の回顧録ではなぜか冠氏らしき人物のことを生え抜きの仲間と説明している。フェイクを入れた?) 、微妙そうな作品だからやれ……と上に押し付けられたってところでは?
きちんと作風に合った編集を任せていれば物語は台無しにならずひょっとしたら成功できてたかもしれないし、生え抜きと外様に明確な格差を設け、何も考えず外様に微妙な作品を押し付けるようなサンデー上層部が元凶ですね。
小学館事件の元凶、あるいはサンデー編集部腐敗の象徴のように言われている冠茂氏ですが、悪評のほとんどはデマや風評被害によるもので、世間で言われているような悪いことはやっていないどころか、渡瀬悠宇先生へのパワハラ問題を収束させるなど漫画家との関係も良好なのです。
では、一連の騒動の本当の原因は何なのでしょうか?

小学館の事なかれ主義とその後の人事に感じる小学館の闇

2015年の市原編集長就任とともにサンデー編集部では大規模な人事異動が行われ、「かってに改蔵」の地丹のモデルとして知られる坪内崇氏や「マギ」「神のみぞ知るセカイ」の石橋和章氏などの名物編集者も去りました。
そして雷句先生の告発文に登場した3人の編集者――冠、高島、飯塚も異動対象となりサンデー編集部を離れ、冠茂は一瞬だけスピリッツを経てウェブに流され、高島氏も行方不明になっています。
しかし、原稿を紛失して雷句先生の堪忍袋の緒を切った張本人であり、渡瀬悠宇先生へのパワハラでも再び告発された飯塚洋介はなんとコロコロに異動したのです。
コロコロ編集部といえば小学館の漫画部門のヒエラルキーの頂点に立つといわれていてエリートが揃う名門中の名門。
左遷どころか栄転です。
しかもかつて「ペンギンの問題」をヒットさせた永井ゆうじ先生を担当している模様。
飯塚洋介はこんな問題だらけの人物にもかかわらず高橋留美子大先生の担当もしたことがある (犬夜叉) ので、先の純血主義の話に照らし合わせればサンデー生え抜き組で、それで優遇されているのでしょう……。

風評被害のため評判が悪いとはいえ「ジャぱん」「命医」「電波教師」など多くのヒット作の立ち上げにかかわり実績もある人が閑職に回され、逆に行く先々で問題を起こすトラブルメーカーが栄転という人事はいくらなんでもおかしすぎませんか?
なんか、編集長という雑誌全体の責任を負う立場にありながら雷句先生に無礼な態度をとった林編集長・縄田副編集長や数々の事件に関わってきた飯塚氏を差し置いて、名前の知られていた冠氏がネット民のヘイトを一身に集めたので、サンデー上層部は非生え抜きの彼に責任を負わせることで収束をはかろうとした気がします。
冠氏や石橋氏も以前述べていましたが、当時のサンデー編集部ではよく働く編集は上層部からは「仕事増やすな。」と好意的に見られていなかったそうだし、厄介払いの意味もあったのかもしれません。

結局小学館は、原稿紛失後雷句先生のもとへ謝罪に行き「いるじゃないですか?もう描かないと言って、また戻って描く人が・・・」と言い放った縄田副編集長と同じように会社としても事件について真面目に反省しておらず、漫画家への待遇は改善されないどころか同一人物が再びやらかすし、逆にコロコロ編集部や冠氏がデマによる誹謗中傷を受けても会社として社員を守ろうとする姿勢すら見せませんでした。
もしここでマガジンのような複数担当制を導入するなど漫画家への向き合い方を変えていればアラタカンガタリ事件は起こっていなかっただろうし、実績や能力に応じた人事が行われていたならばサンデーの今の惨状もなかった気がします。

ネットでは小学館がやらかした話が出るたびに事件から10年以上経った今なお「まーた冠茂か。」との反応が出ていますが、実際のところはトラブルとほぼ無関係な冠氏を責めても何も生まれないし、

問題が起きてもその場を取り繕うだけで根本的に変わろうとせず、生え抜きと非生え抜きの編集で扱いを変える小学館の体質こそが一番の問題

だと思うっちゃね。
小学館上層部は不祥事が告発されたりするたびにネット民がこぞって「冠!冠!」というのを見て、ヘイトや責任追及が自分達に向かなくてよかったとほくそえんでいるんじゃない?
よかったらこっちも読んでね!
うえきの福地翼先生の新作「GOLDEN SPIRAL」は尊いおにショタファンタジー!?
――こっちは平成34年のサンデー編集部に関する考察だよ。
公開 H33-11 加筆修正 H35-09-04