2000年代の鉄道風景
しょうた：
何見てんの？
ひなた：
Youtuberのスーツさんの北斗星乗車動画だよ。
ブルートレインってロマンがあっていいよね～……。一度でいいから乗ってみたかったな～。
あ、しょうたって20世紀生まれならブルートレインに乗った事とかある？
しょうた：
友達の家で遊んだ帰り道にはやぶさをよく見てたけど、乗ったことはないかな。
あ、でも幼稚園の頃に「ブルートレインに乗りたい」って言ったら、代わりにレッドトレインに乗せてもらったことがあるよ……。
ひなた：
レ、レッドトレイン……？
ブルートレインじゃなくて、赤？
しょうた：
ふっふふ……。
しょうたが幼稚園の頃は客車の普通列車が走っていたのだよ……。
今日は2000年代の日本の鉄道についてでも振り返ってみようか……。
京都鉄道博物館で保存されているレッドトレイン。地味なせいか、公式HPからも紹介を省かれる不遇な扱いを受けている。
(画像引用元:GooglEarth)
名前の通り真っ赤に塗られていたレッドトレインは、東京と全国各地を結んでいたブルートレインに対をなす存在として、ローカルな普通列車に使われて全国各地の通勤通学の足として地味ながら人々の生活を支えていました。
しかし、国鉄民営化で貨物列車の運行がJR貨物に分かれて貨物列車と機関車を共用できなくなったり、ワンマン運転に対応できなかったことが原因で平成に入ったあたりから客車で運行される列車も減り、それに伴いレッドトレインも激減。
最後まで現役だった北九州地区のラッシュ用として残っていた車両も、福北ゆたか線が電化された2001年に引退して、魔改造でブルートレインに出世した車両やレトロ調に姿を改めてSLに使用される車両を除いたレッドトレインは消滅してしまいました。
同時に、機関車が客車を引っ張るという1872年の鉄道開業以来のスタイルの普通列車は消滅したのです。
そんな北九州地区のレッドトレインは引退が遅かったこともあり、晩年には合成としか思えないような写真も多数残されています。
たとえば……
戦前からタイムスリップしてきたかのような客車の列車が開業したばかりの真新しいスペースワールド駅で、現代の電車たちと並んでいます。スペースワールドとDD51形+12系・50系客車。
— 意識低い形(けい) (@elegant_8000) December 16, 2016
後続の特急きらめきと快速を1番のりばで退避するシーン。
付近では折しも北九州博覧祭が開催中でした。
2001/9/23＠スペースワールド pic.twitter.com/op0fFg6CtJ
過渡期だからこそ実現した奇跡の顔合わせですね。
ところでこの写真に写っているレッドトレインには、「レッド」トレインなのに青い客車も連結されていますが、これにも現代では信じられないような裏事情が関係しています。
実はレッドトレインはトイレがポットン式で、走りながら線路に汚物をぶちまけていたため沿線から苦情が来てトイレを封鎖することになり、代わりのトイレとしてブルートレインの客車を連結したそうです。
昔「線路はうんこやおしっこがあって汚いから近づくな。」っておばあちゃんによく言われてたのは、レッドトレインが垂れ流す汚物のせいだったんね……。
ひなた：
いつも見る鹿児島線の快速電車が一緒に並んでいたなんて……。
太古のものと現代のものが共存してるって、すごい時代だな……。
しょうた：
電車じゃなくて列車、または客車な。
不用意な発言をすると鉄分濃いめの方からお叱りを受けてしまうから注意。
九州鉄道博物館で展示されているつばめのビュッフェメニューの一部。
(撮影：中野陽人)
当時は西鹿児島を名乗っていた鹿児島中央駅まで運転されていた頃のつばめでは楽飯という商品名で売られていた炒飯が人気だったり、新幹線ではハンバーグが名物だったように列車によってメニューにも特色があったので、この時代の鉄道旅行はビュッフェの名物料理の食べ歩き (食べ乗り？) もできて楽しかっただろうね。
一応今でも東武特急のスペーシアなど一部にはビュッフェの連結が続いている車両もあるみたいだけど、コロナ禍による乗客減少の影響なのか営業休止になっていることが多いし、新型スペーシアが登場して置き換えられることも決まったので、平成遺産・ビュッフェ車の体験はお早めに。
ひなた：
なして「つばめ弁当」のパッケージにSuicaペンギンがいんの？
JR九州なのに。
しょうた：
まったくの赤の他人だよ！でもたしかに似てるよね。
これはあくまでもしょうたの推測なんだけど、Suicaペンギンがペンギンなのは、本当はJRグループの象徴とされている鳥のツバメを使いたかったけど、JR九州のこいつで使われたから仕方なく配色の似てるペンギンを選んだんじゃないか、って思っているよ。
電車特急では旧国鉄の伝統を受け継いだ鉄道唱歌が定番でしたが、中央線のあずさ・かいじの「信濃の国」「ちょっとだけストレンジャー」のように沿線にちなんだ曲やポピュラー音楽も曲が使用されることもありました。
しかし、流しすぎてテープが擦り切れたり、楽曲使用料がネックとなったため、ただのチャイムへの置き換えられてしまったようです。
中でも豪華だったのがJR九州で、90年代～00年代にかけての特急列車では、始発駅発車や終点到着の時にJR社歌の「浪漫鉄道」を流していました。
社歌といっても某商社のように「オイショ！オイショ！」と叫ぶ聞く側もげんなりしそうな社畜ソングではなく、鉄道や九州の大地のすばらしさを歌った壮大な名曲で旅情を掻き立ててくれる旅のアクセントになっていました。コンピレーション・アルバム「社歌」に収録され市販されたというエピソードがこの曲の完成度の高さを物語っています。
終点到着時は、到着と同時に曲が終わるように流すという車掌による粋な演出も行っていました。
そ現在は九州新幹線開業記念日などのイベントの際にオーケストラによる演奏が行われる程度で社員以外が耳にする機会はほとんどなくなっていますが、2021年に「アプリでキューポをためましょう。」などの宣伝に終始していたJR九州の公式Youtubeチャンネルが突如として公式PVをうｐしているので、よかったら聞いてみてください。
しょうた：
JR九州の浪漫鉄道以外で豪華なところだと、トワイライトエクスプレスもピアノ演奏の「いい日旅立ち・西へ」が車内放送のバックのBGMで流れていたらしいよ。
ひなた：
豪華だし旅情はあるけど、北に向かう列車で瀬戸内に向かう曲はおかしくないか？
瀬戸内関係ない北陸新幹線でも流れていたらしいけど、JR西日本はいい日旅立ちが大好きだよな……。
日本史専攻の人は戦時経済の項でチラッと目にしたであろう「営団」の最後の生き残りです。
戦時中にできたからこんなにゴツイ名前をしてるのね……。
子供というのはどうでもいいものを貯めこむ習性のある生き物なので、部屋を整理していたらなんと営団時代のポケット時刻表が出てきました。
当時のしょうた、グッジョブ！
ひなた：
その時刻表日比谷線に菊名行きがあるけど、どゆこと？
南北線にでも乗り入れてたの？
しょうた：
ああこれね。
副都心線と直通する前の東横線は、日比谷線に直通してたんだよ。
あ、互換性のほかにももう１個面倒なことがありました。
買い切り型で使い捨てのため発生する、ゴミになった使用済みカードの処分です。
人によって対応は違ったけど、大きく３種類の処分方法がありました。
一番メジャーだったのは、鉄道会社が設置した回収ボックスへの投棄。
磁気カード廃止からしばらくして撤去されてしまったけど、平成の駅の券売機や改札の横には専用の回収箱が設置されていましたね。
大昔のデイリーポータルＺが詳しく取り上げているので、もっと詳しく知りたいという人は読んでください。
二つ目が寄付。
使用済みのカードはリサイクルしたらそこそこの価値があったらしく、学校や公共施設も独自に回収箱を設置していて、集まったカードを福祉団体に送っていました。
車いすの購入に使われているとか聞いたことがあります。
そして、三つめがコレクション。
あそび心のある会社はカード表面の図柄を月ごとに変えていたし、ケチな会社はカード表面に広告を載せたりして、バリエーションが非常に豊富だったので、使用済みカードを集めることがお子達や鉄オタの間で流行りました。「ドラえもん」など昔の漫画にはお子達の間で切手収集が流行った描写がありますが、それの平成版です。
鉄道会社側もこんなビジネスチャンスを放っておくはずもなく、限定版の記念カードを発売したりして、カード収集趣味界を盛り上げていました。
楽しい時代でしたね。
電車に乗るだけなら互換性以外は今のICカードより便利だったと最初の方で書いたように、SUICAなどのICカード登場後もしばらくは磁気カードの天下が続きました。
しかし、IC乗車券が鉄道・バスだけでなく街中のお店での買い物などにも対応して様々な場面で使えるようになった00年代末からICカードへの移行が一気に進み、関西以外の都市部の事業者は2010年前後に相次いで磁気カードの販売を終了。その関西地区のスルっとKANSAIも、2017年に多くの会社が取り扱いを終了し、最後の悪あがきとして残った事業者で「レールウェイカード」として再出発するも２年後の2019年に終売となりました。
現在も田舎の方には磁気式プリペイドカードの販売を続けているバス会社もあるようですが、既にメーカーがカードリーダーの製造を取りやめているようで機器の老朽化を理由とした廃止が相次いでいおり、全廃も時間の問題となっています。
ひなた：
オレカならオレもたくさん持ってるぜ。
なんならオレの周りにも集めてるやつは結構いるし。
しょうた：
そうなの！？
ひなた：
オレカバトル流行ってるじゃん。
……ん、なんだその反応は？
なんか違うのか？
しょうた：
ああ、これがジェネレーションギャップってやつだ……。
たとえば、九州新幹線開業前のつばめは博多から西鹿児島まで４時間かけて走っていたし、現在は名古屋と長野を結ぶワイドビューしなの号の一部は新大阪から長野まで５時間かけて結んでいたようです。
しかしそれはまだ序の口……。
00年代前半の最長距離特急だった白鳥号は大阪から日本海に沿って青森まで13時間かけて結んでいました。
運行距離は1040キロで、東京から西に進むと宇部、北に進むと洞爺と同じぐらいの距離です。しょうたは昔青森で「大館・秋田・大阪方面」というスケールがおかしいのりば案内を見て驚いたことがあったけど、白鳥の残した足跡だったのか……。
２番目に解説したビュッフェが平成の特急に連結されていたのも、このような長距離列車が残っていて長時間乗り続ける必要があったからだと思うっちゃね。
長距離列車が多かったのは特急だけではなく、ローカル線の減車が今ほど進んでいなくて都会の長編成の電車が田舎にも直通していたので普通列車も長旅をしていました。
都内からでも、東海道線の静岡行や東武スカイツリーラインの会津田島行のように、首都圏を脱出する快速や普通電車も運転されていました。
長距離列車の運行が特に盛んだった山陽本線に至っては、400キロ近く離れた下関と岡山を６時間以上かけて結ぶ直通列車が30分間隔で運行されていたといいます。
乗換がないので18きっぱーには好評だったみたいですが、寝過ごしたらその日のうちに帰れないような場所に連れていかれたり、忘れ物をしたら複数のエリアの忘れ物センターに問い合わせないといけなかっり、遠く離れた地域の遅延が波及してくるので一般客的には旅情を感じられること以外メリットはなかったです。
ひなた：
特急ならわかるけど、鉄オタ以外でそんな長距離の普通電車を乗りとおす需要ある……？
尻が死ぬでしょ。
しょうた：
知らんけど意外といたんじゃない？
この頃はまだ国鉄時代の古い電車が多く残っていたけど、古い電車って椅子に関しては今より柔らかいから。うるさいけど。
令和の世では特徴的な放送として注目が集まっていましたが、テンションの違いはあれど平成の頃は語尾伸ばしは駅の放送としては割とポピュラーで、東京の駅でも「いけぶくろ～ぅいけぶくろ～ぅ」と伸ばしてしました。
平成当時は、芸能人が駅の放送を真似をする時やアニメのバックで流れる音も「しんじゅく～～しんじゅく～～～」と伸ばしがち。
どうやら、放送機器がなかった昭和の昔に、雑踏の中でも聞き取りやすいように駅員が特徴的な発声をしていたのが、平成に入って機械化された後も引き継がれたようです。
鉄道会社もスピーカーでどこにいても放送が聞こえるようになった現代でそんな風習を続ける必要性がないことに気付き、放送内容の更新などで減っていって、いつの間にか平成の懐かしい駅の音になってしまったのでした。
ひなた：
今でも別府駅は「べっぷぅ～～↑べっぷぅ～～↑べっぷぅ～～～↑」って荒ぶっているけど、平成の頃はどこもそんな感じだったのか……。
ひなた：
少し昔の鉄道は色々なサービスがあったんだな。
ネット予約やICカードがなかったり今より不便なところもあるけど、その分ビュッフェとか浪漫鉄道とかサービスで補っていて、おもてなしの心はこの頃のほうが感じられるかな……。
しょうた：
そうだね。
人手不足やコロナによる経営悪化で鉄道各社のサービスはどんどん悪くなってるし、こんな時代だからこそもう一度「おもてなし」の心を再確認してほしいよね。
H34公開 H37 12/10加筆修正